トランクにしまわれていたそれを見た瞬間凛と桜は一片の迷いもわずかな躊躇も見せずに、

「死ね!!」

「砕けてしまって!」

ガンドと影の刃を繰り出していた。

『いやですね〜ひどいじゃないですかー。一度は契約をした仲なのに』

その攻撃をそれ・・・ステッキは容易くかわし、とてつもなくフランクな友達口調を脳に直接送り込んでいた。

と言うよりもその声は・・・

「??コハク??」

アルトリアの言う様に琥珀のものだった。

二十一『魔法少女』

『いえいえ〜違いますよ〜私この愉快型魔術礼装カレイドステッキに居を構えます人工天然精霊マジカルルビーと申します』

「は?」

その名乗りに琥珀を知る全員が思った。

『別物だ』と。

「だ、大師父!何でこれをつれてきたんですか!!」

凛の悲鳴に等しい抗議に対してゼルレッチはマリアナ海溝の底よりも深い溜息を吐く。

「仕方あるまい。私とてこれを出したくは無かったのだが・・・手っ取り早く戦力を上げるのにこれほど最適なブツは無いだろう」

「そうですよ〜この耄碌爺・・もとい宝石翁の言うとおりです。私と契約(呪い)して頂ければあっという間に戦力は急上昇しますよ〜ですのでここはさっさと」

「死んでもお断りです!忘れたんですか!あの時私と姉さんに何をしたのか!」

桜が半分涙目で抗議する。

『もちろん忘れていませんよ〜私の力でお二人を歌の上手い凛さんと桜さんにして深山商店街でゲリラライブをしただけじゃないですか〜それもお二人ともノリノリで。まあ観客の方々は皆さんドン引きでしたが』

『・・・・・・』

一瞬沈黙が舞い降りる。

おそらくあの商店街で満面の笑みを浮かべた遠坂姉妹が歌を歌うと言う痛い光景を想像したのだろう。

それを引き裂くようにルヴィアが声を上げる。

「ちょっと待って下さい歌の上手い二人にしたというのは・・・まさか大師父」

「そう、こいつは契約した持ち主の様々な平行世界での可能性を引き上げその能力を一時的だが、自分のものに出来る性能を持っている」

『いやはや、さすがはエーデルフェルト家の次期当主。凜さんに匹敵する洞察力の早さです』

そう、たとえば契約したのが凜だとしよう。

ハイテクに弱い凜がハイテクに詳しい自分になりたいと思いこのステッキを使用すれば無限の平行世界よりハイテクに強い凜を検索し、その能力を自分に装備させる。

つまりこのステッキと契約すればどのような自分にもなれるまさに究極の魔術礼装。

『ですがこれにはいくつか制約がありまして。その能力を自分のものにしたいのならば、まずはそれに相応しい姿形になってもらわないとならない、と言う事でそれに相応しい服装を身に付けてもらわないといけないんです。ですがどうしてかこれが極めて不評で、ある平行世界の私に至っては過去現在未来あわせても契約者はたった二人しかいなかったんですよ』

そう言ってさめざめと泣くマジカルルビー。

どう言う訳か着物の袖で顔を隠し泣いている琥珀の姿がイメージとして浮かんだ。

声だけは文句なしに可愛いのだが。

「形から?」

「それに相応しい服装と言うと?」

『はい、ですから仮にハイテクに強い凛さんでしたら白衣の女研究者、紅茶や掃除が出来る様にしたいのでしたらメイド服、そして歌が上手くなりたいとご姉妹で祈られていた凜さんと桜さんには色違いのゴテゴテのゴシックロリータファッションになっていただきました』

『・・・・・・・』

更に沈黙が深くなった。

先ほどのイメージの凛と桜の服装がゴスロリファッションと言うあまりにも痛すぎる姿に変わったのだろう。

『あ、ちなみにですね。変身の掛け声については当時一番恥ずかしかったものをチョイスしています。その時点で皆さん顔面蒼白になっていましたが。それではですね、その当時の貴重な映像をここで公開』

「「しなくて良い(です)!!」」

どこからともなく現れたブラウン管のテレビデオを再生しようとしたが姉妹によって一瞬でテレビ毎スクラップにされた。

「リ、リン・・・その・・・貴女は」

「ええ・・・知っているわよ。一生ものの恥であるあの映像で見たから。いっそ見なかった方が良かったけど」

「あれの所為で私達、半年は深山商店街を歩けなかったんですよ」

二人にとって、絶対話したくない過去と言うべきだろう。

「で、ルヴィア、イリヤにカレン、あんた達あれと契約したい?」

「「「絶対に嫌(お断り)です(わ、よ、ですね)」」」

返事は完全に一致していた。

誰が好き好んで子供向けアニメに出てきそうな魔法少女をやると言うのか。

誰もやりたくないのが本音である。

「あの・・・すいません」

そこへ今まで沈黙を守っていたバゼットが質問を出す。

「なぜ凜さん達が契約の候補者なのでしょうか?私達だけでなく、ここには上位の魔術師や極め付きとしてバルトメロイもいます。彼女達との契約は考えなかったのですか?」

「ああそれにはいくつか理由がある。まず一つにこいつは女性専用の魔術礼装でな。たとえ上位魔術師でも男であると契約は出来ぬ。二つ目に第二の系譜でなければ持てぬ様にしたのだよ」

「ですが魔法使い。それだとイリヤスフィールやシスターが条件に合わないのでは」

「それか・・・これが使用条件の緩和を行ったのだ」

「そ、そんな事まで出来るんですか・・・このバカ杖は」

『無論です!私はカレイドステッキ!!宝石のゼルレッチの創り上げた他に類を見ない愉快型魔術礼装!!この私(が面白おかしく出来る事)に不可能などございません!!』

「そのような機能は付けた覚えは無かったのだが・・・ウィルスの様に自己進化を遂げたのかも知れぬ」

『あ、それと凜さん達を候補(標的)にした最後の理由としては私としては齢何百歳や何千歳の婆や可憐な少女とは程遠い大女達とは契約したくなかっただけです』

ルビーの語尾から陽炎の様に殺気が吹き上がる。

「・・・ふふふ、それはどう言う事でしょうか・・・ぜひともゆっくり内容を吟味したいのですが」

「サクラ、これは石にすべきでしょうか?それともこのまま粉砕すべきでしょうか?」

「メドゥーサ、いっそ両方やっちゃって」

「リン、その後エクスカリバーも使用しますがよろしいですか?」

「もちろんよアルトリア、塵一つ残さず消去しちゃって」

「待ちなさい。そんなの魔力の無駄使いよ。私の手で生かさず殺さず、永久に魔力を搾り取る装置にしてあげるわ」

『あ、あわわわわ・・・お、お助け〜』

自分の失言に気付いたのかすぐさまゼルレッチの陰に隠れる。

『り、凜さ〜ん、どうでしょうか?今でしたら特別サービスで出血ご奉仕中ですが契約しませんか〜』

後ろに隠れながら凜に再度契約を勧める。

言っている事は意味不明であるが、必死なのは見て取れた。

「言っているでしょ?絶対に嫌だって」

『そ、そんな・・ううう・・皆さんつれないです。せっかく愛と正義(ラブアンドパワー)を実践できるチャンスなのに・・・』

一刀両断で断れた事へのショックなのか後ろでさめざめと泣くルビー。

繰り返すが声だけは文句の付けようが無いほど可愛い。

「と言う訳ですので大師父、本来でしたら破壊したい所ですがそれは止めておきます。ご好意はありがたいのですが、これは不要ですので早急に平行世界の狭間に永久封印してしまって下さい」

満面の笑みでゼルレッチにカレイドステッキを返却及び永久封印の要請をする。

「そうしたいのは良くわかった。だがな」

だが、それに対してゼルレッチの声は極めて硬かった。

「はい?」

「だが・・・どうしたんですか?」

「少し遅過ぎたな」

「少し?」

「遅過ぎたですって?」

「・・・どう言う事です?魔法使い」

意味の不明な言葉に首を傾げる。

「・・・現状の戦況が戦況ゆえに強硬手段を取らせて貰った」

強硬手段、その単語に五人の背筋に寒気が走った。

「だ、大師父!!強硬手段って!!」

思わず食って掛かろうとした時、ルビーより、思いもよらぬ・・・死刑執行に等しい声が発せられた。

『ふっふっふっ!!皆さんとの呪い一歩手前(仮契約)完了です!!』

「えーーーーっ!!」

「ど、どう言う事ですの!!」

「な、なんで・・・」

ルビーの声に訳がわからず呆然とする五人。

桜にいたっては半分卒倒しかけている。

「すまぬなトオサカ、平行世界のお前達の魔力をステッキに注入させてもらった。厳密には違う人間だが魔力の質は同じだ。完全な契約とまでは行かなかったが、既に登録及び、魔力注入は完了した。後は直接の接触のみだが、これを握らせる位の行動の強制はこいつでも出来る筈だ」

『もちろんでございますクソジジイ・・・いえいえ、ゼルレッチ老、せっかくの契約者(玩具)、そう簡単に手離し(逃がし)はしません。契約をすれば(最後)後はたとえ別の生き物に生まれ変わったとしてもとことん(骨の髄まで遊び尽くすまで)、ついて行く(付きまとう)覚悟でございます』

放射能もかくやの魔力を吹き上げて気合十分のルビー、いつの間にか凜達の前にはカレイドステッキが五本、ちょっと手を伸ばせば触れられる位の位置まで接近していた。

『さあ皆さん、準備は万端!ちゃっちゃっと握っちゃって下さい!』

「じょ、冗談じゃ無いわよ・・・」

「もう・・・嫌です・・・あんな恥ずかしい思いは・・・」

「こ、この様な・・・魔術師が礼装に弄ばれるなんて」

「い、嫌よそんなの・・・」

必死に絶える凜、桜、ルヴィア、イリヤであったが、

「ああすいません足が滑りました」

後ろから突然の白々しい謝罪と共に誰かが四人目掛けて倒れこむ。

ルビーの命令に必死に堪えていた状態ではよけられる筈も無く全員倒れる。

「いった・・・ちょっと!!何・・・する・・・の・・・」

後ろに文句を付けようとしたが手元のそれを見た時、絶望に顔を真っ青にしていた。

その手にはカレイドステッキがしっかりと握られていた。

『いや〜ありがとうございますカレンさん』

「いえ別に大した事ではないわ」

そう言うのは、ステッキを手に焦点の合わない眼をしているカレン。

抗魔力が五人の中では最も低いカレンにはこの強制に耐えられる筈も無く、あっさりとステッキを手にしてしまい契約が完成。

更にステッキに命じられるまま他の四人の契約履行の手伝い(地獄への道ずれとも言う)を行った。

「そうよ、別に良いではありませんか、正義の魔法少女。私達こそが正義、私達に従う者も正義。そして私たちに歯向かう者、逆らう者全て悪。そして悪は慈悲の一欠けらも与える事無く、完膚なきまで殲滅する。ああ、なんて単純明快かつ素敵な理論なんでしょう」

「うわああ・・・」

その手前勝手なカレンの論理に周囲は更に絶句する。

契約と言うよりも呪い、呪いと言うよりは洗脳に近い。

「その通りだったわ。カレイドステッキは完全に正しい」

「ええ、私達は皆正義、そして『六王権』軍は完全なる悪」

「悪を滅ぼすのが正義の魔法少女の役目」

「悪を倒す正義の魔法少女、すばらしい事よ。こんなすばらしい存在になる事に、何を恥ずかしがっていたのかしら」

次々とカレンと同じ眼をして立ち上がる凜達。

「お、お嬢様!!お気を確かに!!そのような事、アインツベルンの後継者としては極めて恥ずべき事!!眼を覚まして下さい!!」

セラが必死にイリヤに呼びかけるが。

「セラ、目を覚ますのは貴女の方よ。力なき正義など無いに等しいわ。やはり正義を名乗る者に必要なのは正義の心なんかじゃなくて、悪を完全に絶滅する事の出来る正義の力なのよ」

呪いと書いて洗脳と読むルビーとの契約を受けたイリヤの耳には届かない。

「だけど、大丈夫よ皆、どんなに皆が正義に無理解だとしても、私達はいつまでも皆の味方だから。悪は全て私達が覆滅してあげるから」

「お、お嬢さ」

「セラ」

なおも呼びかけようとするセラにリーズリットが呼びかける。

「リーズリット!!何ですの!」

「もう無理。あの杖の契約の呪縛、ギアス以上。それに」

「それに??」

「イリヤの魔法少女姿見て見たい」

「だめです!!そのような事は」

そして遂にそれは訪れた。

「さあ皆、行くわよ!!私達の力悪に見せ付ける時よ!」

「はいっ姉さん」

「もちろんですわ」

「いつでもいいわよ!」

「こちらも大丈夫です」

『鏡界回廊最大展開(コンパクト・フルオープン)!!』

詠唱を唱えた瞬間、赤、青、紫、白、そして緑の光が五人を包む。

光が収まった時そこにいたのは・・・

「やる気その気気合十分!正義の魔法少女カレイドルビー参上!」

「優雅に華麗に正義を執行!正義の魔法少女カレイドサファイア参上ですわ!」

「可憐に華やかに登場、正義の魔法少女カレイドアメジスト推参いたしました」

「真実の淑女ここに参上!!私が正義の魔法少女カレイドクリスタルよ!」

「神の名の下に神罰を代行、正義の魔法少女カレイドエメラルド登場です」

赤、青、紫、白、緑と色違いだが同じデザインの服と自分達の髪と同じ色の猫耳に猫尻尾までも身に付けて、心身共に魔法少女と化した凜達五人がそこにいた。

「ルビー!」

「サファイア!」

「アメジスト!」

「クリスタル!!」

「エメラルド」

「五人揃って!!」

『魔法少女戦隊カレイド・エンジェルズ!!』

五人がポーズを決めると同時にど派手な爆発が起こる。

『キャー皆さん素敵です!!やりました!!(玩具)一度に五人ゲットです!』

その言葉と同時に凜達の眼に正気の光が戻った。

「・・・へ?」

「こ、これは・・・」

「この格好はもしかして・・・」

「ちょっと・・・何よ」

「これはもしや・・・」

正気に戻り最初は何がなんだかわからない様子だったが、

「な、何なのよー!!!これは!!」

凜の絶叫で時は動き出した。

「ちょっと!説明しなさいよ!何よあのポーズは」

「そうですわ!!大体魔法少女戦隊って何ですの!」

イリヤとルヴィアが同時に自分の持つカレイドステッキに食って掛かる。

どうやら今までの事はしっかり覚えているようだ。

『何って決まっているじゃないですか〜五人と言えば戦隊ものがセオリーですよ〜』

「そんなセオリー決まっている訳無いでしょうが!」

楽しくて楽しくて仕方の無い陽気な声に怒りと悲痛の混じった声で反論する。

まあ、怒りで反論する凜やルヴィア、イリヤはまだ良い方でカレンは自分の醜態に呆然とし、桜に至っては

「も、もう駄目です・・・もうお嫁にいけない」

この世の終わりとばかりに膝を屈していた。

『あ、ちなみにですね今の素晴らしい映像、ネット動画でたった今、世界中に投稿させて頂きましたのであしからず』

「げげ!ネット動画でか」

「ふむ・・・そうなると世界中の人間の目に留まると言う事か・・・はっはっは!良かったではないか!!世界的な有名人だぞお前達」

死刑宣告の如く下されたルビーの言葉と、この短期間ですっかり現代のIT技術に慣れ親しんでしまったイスカンダルの追い討ちに全員が崩れ落ちる。

「こ、こんな恥ずかしいものが世界中に・・・」

「お、終わった・・・全て終わった・・・」

そんな中何故か凜だけが

「ふ、ふふふふふふふふ・・・」

正義の魔法少女とは思えない暗い笑みを浮かべていた。

むしろ今の凜は悪の魔女と呼んで差し支えない。

「こうなったら自棄よ、桜、ルヴィア、イリヤ、カレン・・・正義の魔法少女として出るわよ」

「ね、姉さん??」

態度の急変に戸惑う桜。

あまりの事に気でも触れたのか?

だがそれも次の言葉で解決された。

「そして、やるからには徹底的にやるわよ。私達の名を口する事も恐ろしくて出来ないくらいね・・・」

「なるほど・・・今の痴態が世界中に晒された以上、残された手は恐怖で口を縛る・・・私達にはそれしか手段は残されていないわね・・・良いわ、やるからには徹底的に完膚なきまでしましょう」

凜とカレンの言葉は恐怖政治そのものであるが、絶望と失意の真っ只中の凛達にとっては天佑と言える考えだった。

その言葉に勇気付けられたのか全員が立ち上がる。

その眼には、正義とは程遠い暗い情念を燃やして。

「いいわリン、それに乗るわ。こんな姿レディには相応しくないわ。私達の名前を口に出すのも憚られる位やってやるわ」

「私もやります。こんな姿、後輩やましてや先輩にも見せられません。忘れてしまいたいと思いたくなる位までやりましょう」

「ええ、では大師父、素晴らしい贈り物ありがとうございます。それとこの格好くれぐれもシェロには話さないようお願い致します」

そう言って優雅に一礼するや凛達五人は一斉に駆け出す。

「・・・話せる訳が無かろう。士郎に教えれば間違いなく殺されるだろうし、第一肝心の士郎本人がいないのではな」

勇んで出撃した凛達を追いかける様にアルトリア達も出撃し残されたゼルレッチは溜息混じりにそう呟く。

『第三次倫敦攻防戦』の前半戦、別名『五色の殲滅戦』の始まりだった。









場所は変わり、ロンドン上空ではドーヴァー横断に並々ならぬ働きを見せた傲慢魔城『ルシフェル』が今度はロンドン空爆を開始していた。

次々と打ち出される岩や宇宙ごみ(スペースデブリ)がロンドンの歴史ある町並みを瓦礫の山に変えていく。

無論それを手をこまねいて見ている訳も無く英国空軍も迎撃を繰り返すが、装甲は『ベルゼブブ』や『リヴァイアサン』と同等らしく、傷一つ付けられない。

それどころか蝿を叩き潰すように振るわれる手によって次々と撃墜していく。

だが、そこに現れたのはカレイドルビーこと凛。

「ふふふ・・・私の相手はあれね。不足は無いわ。行くわよルビー」

『はいはい〜お任せ下さいな〜』

「行くわよ鏡界回廊暴走展開(コンパクト・オーバードライブ)!!カレイドルビーシュバインシュタイン!」

『きゃー凜さん変形です!』

凛の詠唱とルビーの歓声と共に光に包まれるカレイドステッキ。

そしてその光が収まった時カレイドステッキはその姿を一変させていた。

形状としては翼を持った大型ライフルと呼べばよいのか、そんなそれを持つ。

「行くわよ。カレイドアロー!飛翔!!」

凛が叫ぶと同時にカレイドアローと名付けられた大型ライフルは翼をはためかせ、持ち手の凛ごと『ルシフェル』と同じ高度まで舞い上がる。

「さあ行くわよ。悪のゴーレム!覚悟しなさい!この正義の魔法少女カレイドルビーが完膚なきまでに破壊してやるから!!」

そう大見得を切り、カレイドアローを構える。

それを見ているのか見ていないのかそれとも、邪魔する物は全て蹴散らせと命じられているのか、右手を振り上げ叩き落とそうとする。

凛など叩き落とされる以前に当たった瞬間ミンチ肉と化す攻撃を前にしても不適な笑みを絶やさない。

「行くわよーカレイドシュート!」

そう叫んだ瞬間、カレイドアローから凝縮された魔力弾が発射される。

その瞬間、『ルシフェル』の右腕が吹き飛んだ。

カレイドアローの一撃が『ルシフェル』の右腕を完全に破壊した証だった。

更に凛の攻撃の手は緩まない。

続く第二射で左腕を破壊し、更には

「カレイドシュート連続発射!」

魔力弾が次々と打ち込まれる。

今まで破壊できなかったのが嘘の様に全身にダメージを受けていく。

そして全身がぼろぼろとなった『ルシフェル』の頭部にカレイドアローの銃口を押し付ける。

「じゃあね」

親友と軽く別れるような挨拶をしてから魔力弾を発射する。

魔力弾は『ルシフェル』を貫き闇の彼方に飛び去っていく。

そして『ルシフェル』はそのまま爆発、四散して行く。

『第三次倫敦攻防戦』冒頭から倫敦の空を支配し続けてきた傲慢魔城『ルシフェル』は黒き情念を燃やす凛の手によりあっさりと撃破された。

そして『ルシフェル』破壊の様子は各地に散った残りの魔法少女達の眼にもはっきり映っていた。

「どうやら姉さんが空のゴーレムを破壊してくれたみたい・・・よし私も」

「まあトオサカでもあれ位は出来ますでしょう。では次はこの私が華麗に優雅に葬りましょう」

「むー、リンに先越されたみたいね〜よしじゃあ次は私の番ね」

「では行きましょうか。この不愉快な姿から一刻も早く戻らないと」

それぞれそう呟き、カレイドステッキを凛と同じ様に構える。

「鏡界回廊暴走展開(コンパクト・オーバードライブ)!!カレイドサファイアシュバインシュタイン」

「鏡界回廊暴走展開(コンパクト・オーバードライブ)!カレイドアメジストシュバインシュタイン」

「鏡界回廊暴走展開(コンパクト・オーバードライブ)!!カレイドクリスタルシュバインシュタイン!」

「鏡界回廊暴走展開(コンパクト・オーバードライブ)カレイドエメラルドシュバインシュタイン」

『行きますよ〜皆さん変形です〜!』

同時に倫敦各所に四つの光が湧き上がる。

そして光が収まった時、桜達の手にはカレイドステッキから変形した魔術礼装が握られる。

「さあ行きますわよ。哀れなる死者達!!正義の魔法少女カレイドサファイアの鉄槌を受けて、本来いるべき場所へと旅立ちなさい!」

宝石で作られたブラスナックルとレガースを装着したルヴィアが高らかに、

「行きます。死体も残らない死に方をお望みならば正義の魔法少女カレイドアメジストがその通りにしてあげます」

弦のみ宝石の様に光る黒き弓を構えた桜は静かに、

「いっくわよ〜『六王権』軍覚悟しなさい!正義の魔法少女カレイドクリスタルがあんた達を完膚なきまでに蹴散らしてやるんだから!!」

宝石の様に五色に輝く針金で作られた鳥が生命を持ったように羽ばたき肩や指に止まり、それを従えながらイリヤは不敵に宣言し、

「死者達よあいにくですが今の私はすこぶる不機嫌なのです。ですから優しく祓う事は出来ません。正義の魔法少女カレイドエメラルドが強制的に貴方方をこの世から主の御許に送り出して差し上げます」

どこまでも不機嫌に怒りすら漂わせたカレンが自分の頭部の倍の大きさの鉄球を振り回す。

相手の返事を聞くまでも無く、各所で『六王権』軍との戦闘・・・いや、魔法少女達の虐殺が始まった。








傲慢魔城『ルシフェル』の撃墜。

更に結界を越えた部隊に対する圧倒的な火力での迎撃。

それを受けてもヴァン・フェムの表情に動揺や錯乱はない。

まあ、各部隊を壊滅、もしくは全滅に追い遣っているのが、でたらめな魔力を秘めた礼装をを手にしたあまりにもふざけた服装と言動を繰り返す五人の魔法少女(本人達の自称であるが)だと言う事には眉を潜めたが。

「・・・各部隊を下げさせろ。無理な攻撃を繰り返すな。くれぐれもルヴァレの轍を踏むな。変わりに『アスモデウス』を前線に回せ。少しでも時間を稼げ」

「はっ、既に通達は全軍に回しました」

側近の死徒の報告に満足げに頷く。

「それと『ベルフェゴール』は?」

「既に分離、変身は完了。ただ、魔力の注入に手間取りもう暫し時間が」

「急がせろ。後『サタン』の起動も始めろ」

「はっ」

一礼し静かに姿を消す側近。

まだ、『第三次倫敦攻防戦』は始まったばかりである。

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